クロガネ・ジェネシス

第41話 窮鼠猫を噛む
第42話 黄昏のアルテノス
第43話 群体vs単体
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第ニ章 アルテノス蹂 躙じゅうりん

第42話
黄昏のアルテノス



「ハァ……ハァ……くそ! 息が……」

 零児は全力疾走で迫り来るシーディスに背を向け逃走していた。

 これ以上余計な魔力は使えない。進速弾破を使うことなく先ほどから全力で走っていたのだ。

 しかし、シーディスの巨体を考えれば、徒歩で逃走することは愚かといえる。

 走っているうちに何かしらシーディスを妥当するアイディアがでるかと思ったが、今のところそんなアイディアは浮かばない。

 ――どうする? どうする! どうする!?

 この状況はとにかく危険だ。何か打開策がなければ。

「!?」

 その時だった。  零児が走る前に、1人の少女が現れた。

 エメラルドグリーンの髪の毛、琥珀色の瞳。零児とほぼ同じ背丈に褐色の肌の少女。

 服装は上下共に赤茶色で、へそと肘から先を露出し、活発な印象を与える少女だ。首には包帯がリボンのように巻き付いている。

「あいつは……?」

 零児はその少女を覚えている。

 トレテスタ山脈登山前に、零児の目の前に現れた少女。

 ――確かエメリス……。

「レイジ!」

 彼女は零児に手を差し出してきた。

「お、お前は……」

「レイジは、あたしが助ける!」

 エメリスは問答無用で零児の手を掴んだ。

 そして、そのまま恐るべき脚力で跳躍した。

「ナァアアアアアアア……!?」

 零児はエメリスに手を引かれる形で宙を舞う。

 あまりにも高々と、あまりにも凄まじい速度で地面が離れていく。

 エメリスは民家の屋根に降り立った。

 ――っつぅ……。

 零児はその屋根に両手をつき、肩で息をする。

 エメリスに握られた手首が痛い。

「零児!」

「……?」

 エメリスは零児に対して無垢な笑みを浮かべた。

「久しぶり!」

「あ、ああ……。けど、なんで……」

「そんな説明あと! 見ててね零児! あたし、アイツやっつけてくるから!」

 さらりと笑顔でとんでもないことを言うエメリスに、零児の思考がついていかない。

 あの巨体を倒す?

 本気にも冗談にも聞こえる。

「ま、待てエメリ……」

「いっくよー!!」

 零児の制止など意に介さず、エメリスは屋根から再び凄まじい跳躍力でシーディスへと向かっていった。

「わ、訳がわからん……」



「スゥ……」

 エメリスは宙を舞いながら息を吸い込む。

『おまえ!! よくも零児をいじめたな!!』

 そして、明らかに人間離れした声で、シーディスに怒声を放った。

『ナンダコノガキ……?』

 エメリスは別の屋根に飛び移り、さらに跳躍する。

「だあああああああああああああああ!!」

 そして、シーディスの膝目掛けて、全体重を乗せて殴りつけた。

 それは1発ではなかった。

 2発、3発と連続で続く打撃だった。

 シーディスの皮膚に穴が空き、血が吹き出す。

 連続で殴りつけられた拳は、その穴を拡大していく。

 その攻撃は確かにシーディスに対してダメージを与えていた。しかし、巨体を誇るシーディスに、拳のダメージだけでは大きなダメージには至らない。

 シーディスはゆっくりとエメリスがいる部分目掛けて手を伸ばしていく。

「!」

 シーディスの手が迫る。エメリスは即座にその場から離脱を図り、近くの民家の屋根に着地する。

 それを確認し、シーディスは腕を引っ込めると同時に、エメリスが立っている民家目掛けて、レーザーブレスを発射する。

 直撃したら普通の人間なら即死だ。

 エメリスはそれを防ぐために光の壁を出現させた。

 斜め上から飛んできたレーザーブレスは、彼女の光の壁に直撃する。

「グッ……!」

 受け止めたレーザーブレスは重く、彼女1人で支えるには荷が重い。

 が、数秒でレーザーブレスは収まった。それを確認し、光の壁を解除する。

『ナントモシツコイガキダ……』

「ガキじゃない! エメリスだ!」

 悪態を付きながら、エメリスは屋根を伝って移動を開始する。

『バカメ……』

 シーディスは前傾姿勢となり、首を地面に多きく近づけた。

「!」

『クラエ!』

 シーディスの口内が光を帯びる。しかし、それはレーザーブレスとは違う輝きだった。

 それは無数の光弾だった。小さな光の弾丸が、雨となってエメリスの上空に降り注ぐ。

 エメリスはそれを確認し、移動をやめて立ち止まる。そして、降り注ぐ光弾のうちの1つに狙いを定める。

 体を捻り、拳を握り締めて引く。そして、光弾の内の1つをその拳で殴り返した。

『ナンダト!?』

 シーディスの顔面に光弾が直撃する。予想外の反撃に驚き、前傾姿勢をやめて立ち上がる。

「お前なんかに……」

 エメリスはシーディスを睨み付ける。

「お前なんかに負けてたまるもんか!!」

 声を張り上げ啖呵を切る。それはシーディスの神経を逆撫でするには十分な言葉だった。

『アリガゾウニカテルカ!!』

 シーディスは自らの腕を横に振い、エメリスを殴り飛ばそうとする。

 巨体から繰り出される強烈なスイング。それにより、無数の民家共々薙ぎ払われる。

 その瞬間、シーディスは違和感を覚えた。

 驚くべきことに、エメリスはシーディスの腕を伝って接近してきたのだ。スイングしている一瞬の間だけ、重力は横にかかる。その一瞬の間で、エメリスは壁を走るかの如く、シーディスの腕を伝って走ってきたのだ。

 人間ではまず不可能なその芸当に、シーディスは驚きを隠せない。

『ナンナンダコノガキハ!?』

「だああああああああああああああああ……!!」

 一気に腕、肩へと昇り、再び体を捻り、拳を放つ体勢を作る。同時にその拳が光をまとう。

 叫びながら光をまとった拳はシーディスの顔面目掛けて放たれた。

 同時に光が拳の形を作る。それは巨大な拳だった。まるで拳だけが巨大化したかのようにも見える。

 シーディスの顔面にそれが直撃し、頭が左右に揺れる。脳も揺さぶられる。

『ウ、オオオオオ……!』

 巨体を誇るシーディスに対して、今の一撃は間違いなく有効な一手であるといえるだろう。

『フン!』

 しかし、気絶させるには至らない。シーディスは肩の付近で宙に浮いてるエメリス目掛けて、エメリスの拳よりはるかに巨大な拳を放った。

「わっ!!」

 エメリスは驚き、すぐさま光の壁を作る。

 しかし、地に足が着いているわけではないので踏ん張ることもできず、エメリスは大きく殴り飛ばされる。

 夜の空を高速で飛んでいく。景色がめまぐるしく変わる。自分がどこに足を向けているのかすら分からなくなる。

「う〜ん目が回る〜!」

 とりあえず、空中で体勢を整える。そして、背中から光の翼を作り出す。

 飛んでいく方向に逆らわず、揚力を生み出す。

 民家の屋根に激突するスレスレのところで激突を免れる。同時に翼を消滅させ、屋根の上を転がり、再び立ち上がる。

「あ〜怖かった……」

 我ながらよく頭が回ったものだと思う。

 シーディスとエメリスの距離はかなり大きく離れた。

「うう〜ん……ここからどうしよう……」

 エメリスは思案する。どうにも自分1人では分が悪い。  そのときだった。

 エメリスに向かって接近していく飛行竜《スカイ・ドラゴン》があった。

 赤茶色の体色を持つガンネードという飛行竜《スカイ・ドラゴン》。そこには、零児とアーネスカが乗っていた。 「エメリス!」

「あ!」

 ガンネードはエメリスの横に降り立つ。

「良かった。思ったより無事のようだな」

「う、うん……」

「よし、乗れ! 奴を叩くぞ!」



「レイジ? この竜《ドラゴン》は?」

 零児は今の状況を簡潔に語る。

 零児がシェヴァとアーネスカ達から自分に注意を引き付けるために、単独で囮を買ってでた直後、アーネスカとシャロンはアルトネール、アマロリットと合流したのだ。

 アーネスカはシェヴァを3人に任せ、他に飛べそうな飛行竜《スカイ・ドラゴン》がいないかを探しだし、零児を救うために駆けつけたのだ。

 それがついさっきのことだった。

「零児、本当に正面からあいつに戦いを挑むつもりなの?」

 アーネスカは信じられないといった表情で零児に問う。

「そのつもりだ」

 零児の左手には、ダリアを倒すときに使ったフックショットが握られている。

「それ1つに命を預けるのは流石に関心できないわ。もっと安全な方法を考えたほうが……」

「それなら、アーネスカの魔術弾で、先に奴を撃破できないか、試してみないか?」

「それもそうね……」

 ガンネードはシーディスの周囲を飛び回る。シーディスはまだこちらの接近に気づいていない。



「じゃあ、ちょっと攻撃を仕掛けてみますか」

 アーネスカは普段使っているリボルバーとは別の銃を手に持ち構える。その銃は無骨な形とは裏腹にシリンダーの部分が銀で出来ていた。

「零児! ガンネードの手綱をお願い! そして、出来るだけ奴に接近して!」

 どんなに巨体を持とうと、首をの頚動脈を切り裂かれたり、頭を打ち抜かれたりすれば生命活動は停止する。

 アーネスカはそこを狙い、出来るだけ短時間で済ませるつもりなのだ。

「わかった!」

 零児はガンネードの手綱を握り、シーディスの頭部へ接近していく。

「行くわよ!」

 アーネスカはシリンダーに魔術弾を装填し、銃を構えた。狙いはシーディスの頭部。

 シーディスはこちらの接近に気づいていない。アーネスカはシーディスの横顔目掛けて魔術弾を発射した。

「フリージング・ヴァイラス!!」

 発射された魔術弾は弾頭の青い氷属性の弾丸だった。

 シーディスの横顔にその弾丸が叩き込まれた。同時にシーディスの顔横半分が凍結する。

『ウオオオオア!?』

 突然の顔の氷結に、シーディスは驚き、目を見開いた。

 同時に何が起こったのかを即座に理解する。そして視線を走らせ、自らの敵の姿を捜す。

『マダオレニイドムカ!』

 シーディスの口内が輝く。その光を見て零児は即座にそれがレーザーブレスであると悟る。

「やばい!」

「させないわ!」

 シーディスに向けて、アーネスカが銃口を向ける。

 レーザーブレスの発射とほぼ同時に、アーネスカの銃が火を噴く。

「フリージング・ヴァイラス!!」

 それは2発目の氷結弾。それがレーザーブレスと真っ向からぶつかり合う。

 途端に広がる真っ白なスモーク。ガンネードとシーディスは互いの姿を見失う。

 アーネスカは銃のシリンダーを開き、別の弾丸を装填する。

 ガンネードは白いスモークの中を突き破り、シーディスとの距離を詰めていく。

 スモークを突き破った瞬間、シーディスの姿が一瞬で零児達の目に映る。その瞬間、アーネスカは今装填した弾丸を発射した。

「エクスプロージョン!!」

 発射された弾丸は普段からアーネスカが常用している爆発系の魔術弾だ。その魔術弾が、フリージング・ヴァイラスによって凍り付いたシーディスの首に直撃する。

 氷と共に爆散し、シーディスの首から赤い液体がドロリと流れ出る。

『グ、オオオオオオオウ!!』

 確かなダメージ。アーネスカはその手応えを感じた。

「効いてるぞ!」

「効いてなきゃ困るわよ!」

 アーネスカはさらに魔術弾をシーディスの首目掛けて連射していく。

 が、それをさせまいと、シーディスは自らの手の平を突き出してくる。

 シーディスの手の平はほぼ無傷だ。

「ちっ、急所を狙わなきゃダメか!」

 アーネスカは舌打ちをする。 「だが、奴の首に傷を付けることはできた! あそこを狙い続ければ……!」

『ムン!』

 その直後。シーディスは三度己の手でガンネードを殴り飛ばしにかかる。

「!」

 エメリスがその動きに即座に反応し、光の壁を作り出す。

 無論、いくら壁を作ったところで、シーディスの攻撃を防ぎ切れるわけではない。衝撃を少し吸収する程度だ。

 シーディスのスイングで、ガンネードが大きく揺さぶられる。その弾みで、零児がガンネードから投げ出された。

「零児!」

「レイジ!」

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 零児はとっさに、左手に持っていたフックショットをシーディスの首目掛けて発射した。

 鉄線はシーディスの首に巻き付く。

『ナ、ナニ!?』

「まだだぁ!」

 フックショットの鉄線が巻き取られ、零児とシーディスの距離が近づいていく。

 が、シーディスは自らの手で鉄線を握り、あっさり引きちぎる。

 無論零児とて、そうくると思っていた。だから零児は作っていた。あいている右手に握られている、無限投影で作り出したもう1つのフックショット。

 間髪入れずそれが発射され、再びシーディスの首に巻き付く。

 引き金を強く強く引き、零児とシーディスの距離はさらに近づく。

 零児は左手に魔力を込める。義手として生まれ変わった左手そのものを媒体として魔術を発動させる。

「明星《みょうじょう》……」

 アーネスカの攻撃により血を吹き出しているシーディスの首。それは目と鼻の先だった。

「焦熱拳《しょうねつけん》!」

 炎をまとった燃え上がる拳。シーディスの鎖骨に着地すると同時に、零児はその拳を首に叩き込んだ。

 結果、首の皮膚が一瞬でただれ、傷口がさらに広がり血液を噴出させる。

『ガアアアアアアアア!!』

 シーディスは痛みのあまり咆哮する。

 同時にシーディスの手が、自身の首まで伸びてくる。零児を直接捕まえるためだ。

 が、シーディスの手が届くより早く、零児はシーディスの鎖骨から姿を消した。

 アーネスカが駆るガンネードがシーディスの目の前を横切り、零児がそれに飛び乗ったからだ。

 零児は間一髪でガンネードに移動し、シーディスの手は空振りした。

「まったく無茶するんだから」

「無茶しなきゃ、あんなのは倒せねぇさ!」

『グウウウウウウ、オノレ!!』

 シーディスは自身より上空を舞うガンネードを睨みつける。

 度重なる首への攻撃。既に相当量の出血をしているにも関わらず、未だに倒れないのはドラゴン故の生命力のなせる技か、巨体故によるものか……。

『ガアアアアアアア!!』

 その咆哮の直後。シーディスは今までとは異なる攻撃を仕掛けてきた。

 レーザーブレスとは全く違うそれは完全なる炎の固まりにして、巨大な火球そのものだった。

 人間がまともに食らえば全身火傷では済むまい。骨も残らず、文字通りの消し炭にしてしまうだけのエネルギーをまとう固まり。

 それがシーディスの口から放たれた。

 アーネスカはすぐさまその火球に銃を向ける。

「エクスプロージョン!!」

 回転式拳銃《リボルバー》から放たれた爆発系の魔術弾。それはすぐ様火球と衝突して大爆発を引き起こす。

 しかし、火球はまったく軌道をはずすこともなければ分裂する事もなく、まっすぐにガンネードへと向かっていく。

「クッ……このままじゃ!」

 そのとき、エメリスが立ち上がった。

「エメリス!?」

「なにをするつもり!?」

「ハァァァァァ……!」

 彼女は両手を火球に向けて突き出す。

 すると、彼女の両手の平から目に見えぬ衝撃波が放たれた。

 衝撃波は火球と衝突しその威力を衰えさせる。

 その隙をついて、ガンネードは火球の進行方向とは別の方向にガンネードを移動させる。

『1ツカワシタグライデイイキニナルナ!』

 シーディスはその火球を1発だけではなく、2発、3発と連続で発射してくる。

「調子に乗るんじゃないわよ!」

 アーネスカはガンネードを操り、2発目、3発目の火球を回避していく。

『オ、オノレ……!』

 シーディスはそれでも火球を打ち続ける。が、徐々に火球の大きさが小さくなってきた。

『クッ……メガ……!』

「!?」

 零児とアーネスカはシーディスの様子がおかしいことに気づいた。巨体がふらついているのだ。

 翼は徹底的に破壊され、今は首に多大なダメージを負っている。

 蓄積されているダメージが大きいのだ。

「今なら止めをさせるかも!」

 アーネスカは再び零児にガンネードの手綱を渡す。そして、シリンダーにさらなる弾丸を装填した。

「これで終わらせる!」

 ガンネードがシーディスに接近していく。

 無論、シーディスもそれを黙って見てはいない。

『グッ……オレハマダ、ヤラレルワケニハイカンノダ!!』

 シーディスの口内で、再び赤い炎が揺らめく。

「エメリス!」

 零児の声に反応し、エメリスは再び立ち上がり、先ほどの衝撃波を放つ体勢を作る。

 その直後、再び火球が放たれた。

「うおおおおおおおお!!」

 エメリスは先ほどと同じ衝撃波を放つ。同時に零児も右手を高々と掲げ、無限投影を発動する。

 それによって、巨大な刀身を持つ刃が作られた。

 およそ振り回すには向かないほど巨大な刃を、零児はシーディスの火球目掛けて降り下ろす。

「だああああああありゃああああああああああああ!!」

 刃は火球に深々と突き刺さる。その瞬間。

「散!」

 零児は自ら生み出した刃を爆散させた。

 刃諸とも、火球は粉々に砕け散る。

『バ、バカナ……!』

 爆煙が広がり、ガンネードはそれを突っ切る。

 爆煙を突き破り、シーディスの前にガンネードが姿を表したその時、一発の魔術弾が発射された。

「シャイニング・ナパーム!!」

 元より目に見えない弾丸はそれ以上に加速し、シーディスの首を捕らえる。

 途端、爆音が響きわたり、血しぶきが宙を舞った。

『ゴオオオオオオオオオオウ……!!』

 息も絶え絶えな獣の如き声を上げるシーディス。

 煙が晴れたその直後、シーディスは、下顎を失い、首はえぐられていた。

『グウォオオオオオオオオオオウ……!』

 脳は機能を失い、瞳が虚ろになる。

 最早痛いとか熱いなどという感覚は感じない。

 シーディスは自らの肉体を制御する術を失った。

 そしてゆっくりと、その巨体をアルテノスの街中に横たえていった。

 その衝撃はちょっとした地震を引き起こし、無数に並んでいた民家を押しつぶすこととなった。

「倒した……」

 零児は横たえたシーディスの死体を見る。それを倒したアーネスカは黙して語らない。

 眼下に移るアルテノスの町並み。そこにあるのは、クロウギーンの死体、壊れた家々。そして今倒したシーディスの死体。

 ようやっと、巨体を誇るシーディスを沈黙させた。しかし、その被害は小さくはない。

 シーディスが暴れたことによる町への被害は大きい。

「ねぇ……零児」

「ん?」

 アーネスカは呟くように語りかけた。

「あたし……今より最前を尽くすことってできたかしら?」

「わからん……」

 零児は思う。どのような形であれ、この状況は避けられないことだったのではないかと。

 シーディスが暴れたことと、シーディスの死によってもたらされたアルテノスの被害は計り知れない。これを惨劇といわずしてなんといおう。

 この異常と化した町こそが、今彼らに与えられたステージなのだ。

 そして、このステージの終わりは未だに見えない。

 零児はガンネードの上からある一点を見つめた。

「どうやら、まだ戦いは終わらないようだぜ」

 アーネスカも、零児が見ている方向に目を向けた。

「な、何よ……あれ……」

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